Thoughts

February 2011

運命

秋のリサイタルのためにインターネットで色々とアイデアをもらおうと曲探しをしていたら、短いながらも、とてつもなく美しい曲に出逢いました。夜中の静かな時間に一人で大感動(笑)。知らない素晴らしい曲に出逢えてとっても嬉しくなりました。次のコンサート・プログラムには絶対に乗せようと思っています。

それが...。

今日,朝の教会の御ミサが終わって、最後にオルガンの方が送奏をしだしたら,何だか聴いた事のある曲。。。そう、数日前に出逢った,あの曲でした!
つい3日前に初めて出逢った曲なのに!!!
「偶然」という言葉では収まり切れない驚きがありました。運命を感じています(笑)。

曲名は敢えて書かないので,これが何の曲か知りたい方はぜひ秋のリサイタルにいらして下さい!

山あり谷あり

Tascam_resize.jpg練習に集中していたらまたブログが滞ってしまった...。
そしてブログを更新しない間に練習は色々な段階を経て来ました。

削ぎ落としに削ぎ落とす方向で練習を進めていたら、弾いていてもどんどんと曲の骨格が見えて来て余計なものが付かなくなりました。勝手に付けていた「感情」も意識しなくても削がれるようになって弾いていると、まるで自分が弾いていないかのように客観視出来ているような気になって、完全に自分の感情とは関係なく「自分を明け渡している」ような感覚でした。
自分でもこれには大満足で、やっとここまで来れたか、と自分でもハッピーでした。
ちょうどこの時期にグレン・グールドの記事を読んでいて彼がバッハの「フーガの技法」の曲について次のように語っていました。『これらの曲は,果てしなく続く灰色の陰影の世界です。私は灰色が大好きなのです。実は、シュヴァイツァーが素晴らしい事を云っています。『静寂で厳粛な世界、荒涼としていて厳しく、色も光も動きもない』と。」

これを読んで、自分の今の演奏自体も「灰色の世界」,水墨画のようなのかな〜と考えていました。演奏する側としては敢えて、色を付けず、聴き手側の心や想像に任せる感じなのかな〜と、妙に納得してしまいました。

ところがリサイタルも一ヶ月前に近づいて来ていたので、先週位から録音をし始めました。「調子がいい」と思い込んでいたのだが.....。

聴いてみて、愕然........................。

こんな事になっていたとは!!!
水墨画どころか,全く何もない!!!灰色一色の濃淡も何もない音楽になってしまっていた。そのあまりの面白なさ,魅力なさに大ショック。青くなってしまいました。どうしよう...。

しかし、コンサートも一ヶ月後なので落ち込んでいる暇もなく、すぐに改善に乗り出しました。ここからが面白いのだが、削ぎ落としに落としていはいたので,脚色する方はそんなに大変ではなく、逆に今までにないくらいに,楽しい。渋谷の超厚塗りの山姥メークを全部取って、スッピンにした状態に,今度は自分の顔を生かしたメークをするような感じでしょうか。素顔が見とれる程美しければそれが一番良かったのだが、そうもいかなかった(笑)。

昨日は初めての全曲通し練習。録音してみたら、ずっと良くなっていた(ホッ)。面白い事に結構自由に思いの向くままに弾いても,骨組みはしっかりと身に付いているので、音楽が壊れる事がなかった。あそこまで削ぎ落としたのは無駄ではなかった(笑)。

それにしても自分の演奏を録音するのは本当に大切。参考にしかならないが、色々と気付かされたり,考えさせられたりする事は間違いない。録音するのは憂鬱(自分と向き合わなくてはいけないから)だが、覚悟を決めて,録音して本当に良かった(笑)。危ない,危ない...。

進化?

昨日の素晴らしいコンサートに触発されて、今日は超張り切りモード。
今朝練習を始めるのが楽しみでしょうがなかった。最近ずっと調子が良くて練習も軌道には乗っているが、逆に一日一日の進歩は着実ながら、あまりに少しずつしか前に進まないので、少し気持ち的にだれていたように思う。
しかし、昨日のコンサートで急にやる気がモリモリとまた湧いて来た。あそこまで追求しなきゃ、というのと、あそこまで自分の感情を削ぎ落としに落としても音楽は豊かで面白いんだと云う希望を持って今日は練習に励みました。

目指すものを見せて頂いたおかげで、はかどる、はかどる。一晩の間に色々な問題が一気に解決。以前に友人が動物の進化の話をしてくれて、何かのきっかけである種の動物が進化すると、全然遠く離れた所にいる(地球の裏側だったりするらしい)その同じ種の動物も何もきっかけがないのに進化するらしい、と教えてくれました。

今日はまさにそんな気分。練習のおかげではない、自分の中での大きな『進化』があったような気がする。Yさんに大感謝。

人はみかけ?

もう14年程前になるが、イタリアの小さなコンクールを受けに行きました。当時ロンドンに住んでいたので、私はロンドンから行ったのだが、ヨーロッパに留学していた多くの日本人が参加していました。もちろん日本からの参加者もいたので、日本人が結構多かった。小さな街の小さなコンクールで、練習時間も一人数時間しかピアノがあてがわれないので、暇つぶしに街を歩いていると必ず誰かに会う状況です。大きなコンクールとは違ってぴりぴりしている訳でもなく、一人で来ている人も多いので、会えば一緒に散歩したり、お茶したり、食事したり、ととっても雰囲気のいいコンクールでした。この年の課題となった作曲家がブラームスとベートーベン。3次まであるコンクールで、課題曲も多かったので、やはりブラームスやベートーベンをレパートリーとして持っている特殊な傾向のピアニストが多かったように思う。考えてみると他のコンクールをいくつか受けているにも関わらず、コンクールがきっかけで知り合った人と連絡を取り続けているのは、このコンクールで出逢った人達だけです。ブラームスとベートーベンが好きな人は(完全に偏見ではあるが)音楽に対してだけでなく、人間的にも誠実のような気がしてしまう。

コンクールの1次予選、2次予選は非公開で、私は1次でさっさと落ちてしまったので、すぐに気晴らしにコモ湖に向かってこの街を出てしまったのだが、その結果、私はこの時に出逢った他のピアニスト達の演奏を一人も聴かずに帰ってしまった訳です。

11-02-09_21-04_resize.jpg前置きが長くなってしまったが、このコンクールにフランスから参加していたYさんがいました。当たりがとても柔らかく、穏やかな優しい感じなので、初めて街で会った時も気軽に話しかける事が出来ました。私もロンドンを離れてからは音信不通になってしまったのだが、時々日本でのコンサートの宣伝を見たりしていたので、いつか聴きに行きたいな〜とずっと思っていました。

そんな中、全く違う用事でやはりこの時のコンクールで知り合った京都に住んでいるM君と電話で話していたら「今度Yさん東京文化会館でリサイタルやるよ」と教えてくれました。今、自分のリサイタルの練習を最優先にしているので、直前まで迷っていたのだが、今日は練習が意外と効率良く出来たので、行く事にしました。

本当に行って良かった(笑)!!!!!
ここ10年くらいのコンサートのベスト5に入る、本当に素晴らしいコンサートでした。
とにかくびっくり。
舞台に出て来た時は10数年前の印象のまま。とても優しい感じで全く気負いもない。なぜか分からないが、お辞儀がとってもいい(笑)。姿勢がいいせいなのか、偉そうではないのに「立派」(私が書くのも変だが...。)な感じがするし、その上に誠実さが伝わって来る。

それにしてもびっくりだったのが演奏。最初の曲はモーツアルト。これはイメージ通り。音の作り方が丁寧で、和音の響かせ方が美しい。やはりブラームスを弾く人は和音の響かせ方が独特だと思う。

次がベートーベン。段々と本性が現れて来ました(笑)。音楽の追究の仕方が半端じゃない。色々なコンサートに行って最近とにかく気になるのが、安易に音楽を形よく上手に作り上げた演奏が多い事。深く追求する事がないから、みんな同じような演奏になってしまう。20世紀前半の演奏家の演奏を聴くと「同じ曲なのにこんなにも違う解釈なのか」と、驚かされてしまう。音楽的な追求の深さが「個性」を浮かび上がらせていた結果のように思う。

Yさんのベートーベン。とことん正統派なのにとにかく面白かった。曲の骨格がしっかりしているから個性が出ていても鼻につく事がない。ユーモアのセンスもたっぷり。(日本人でユーモアを感じれた演奏家は初めて!)。何回も聴いた事がある曲なのに、次にどう出るかが全く見えない。まるで、新しい曲を弾いているかのようで新鮮な気持ちで聴けました。

次にメシアンの曲、一曲。これはあまりしっくり来なかったが、この後にストラヴィンスキーのペトルーシュカ。これにとにかく唖然。「この人、こんなに凄い人だったんだ...」と驚くばかり。テクニックも凄かったが、魂の奥底から出て来る燃えたぎるような情熱にただただびっくり。ぐいぐいと聴き手を引っ張って行って、素晴らしいの一言。「まだ前半なのに、こんなに全て出し切っちゃっていいの〜〜〜?」と心配になっちゃいました。弾き終わったら、あまりの凄さに思わず唸ってしまいました。隣の人も唸っていたけど(笑)。パワフルな演奏をする人はいっぱいいるけれど、内側から来る情熱的な演奏を聴いたのは本当に久しぶり!!!また、あの穏やかで物静かな印象のYさんから出て来ているのが未だに不思議でしょうがない。凄いギャップだ!

そして後半がムソルグスキーの展覧会の絵。こんな「展覧会」聴いた事ありません(笑)!
何回も聴いている曲なのに、とにかく新鮮。新しい発見がいっぱい。媚びた演奏でもひけらかすような演奏でも自己陶酔の演奏でもなく、本当に誠実に音楽を魅せる「Yさんの展覧会の絵」でした。音楽が大きい。懐が深い。ただただ、感嘆。

今日はとにかく音楽の醍醐味を堪能させて頂きました。音楽を壊す事なく、でも自分を表現し切っていると云う、コンサートのあるべき姿で、大感激でした。

終わって、ご挨拶に出て来たYさんはまた穏やか〜な優しい感じのYさん。本当に人って見掛けでは分からない事がいっぱい(笑)。

深い言葉

今日、教会で聞いた言葉。

『「愛している」という事をどうやって残して行けるのか?どうやって伝えたらいいのか?』

クリスチャンとして愛に生きる事が人生の目的だが、確かに具体的にどうすればいいのだろうかとつくづく考えさせられた。日々の生活ももちろんそうだが、音楽家として本当に「愛」を伝え、そしてそれが人の心に残るものとなっているのだろうか?神父様のお話の中でのほんの一文だったが心に深く刻まれた言葉でした。