Thoughts

October 2013

心で忘れない

今日は自分の教会での一大イベント,バザーがありました。毎年テーマがあるのだが、今年は東北支援のバザーで「つなぐ・つなげる」を掲げ、売上金は全額東北支援にまわされる事になりました。

焼きそばやお汁粉、炊き込みご飯や東北の各地からの特産物、宝市や手芸品、ゲームやくじ抽選等大賑わい。お天気が良かった事も手伝って大盛況でした。

そして今回の一番のイベントが地元鎌倉の医師、さかいクリニックの酒井先生による講演会でした。さかいクリニックさんは家から本当に5分のところにあり、まだお世話になった事はなかったのだが、前庭で色々と東北関係のイベントをおこなっていたり、ポスターが貼られているのは通りすがりに見てはいたものの、あまり気にしていませんでした。

しかし,「今回の講演会は絶対に聞いた方がいい」、と何人にも薦められたので、バザーのお手伝いも途中でほっぽり出して聞きに行ってしまいました。

本当に聞きに行って良かったです。お話をして下さった酒井先生は40代という事でしたが,見た目はさらにお若く,遠目からだと本当に20代と思ってしまう感じです。お話の内容から、その行動力と医師としての使命感、そして人を助けたいそのご意思の純粋さと謙虚さがひしひしと伝わって来ました。「僕の言葉だと伝わり切れないし,話しながら泣いてしまうのでもう講演会はしないと決めて1年が経つ」と仰っていたが、今回教会のお願いに応えて下さって講演をして下さった事に本当に感謝です。

やはり講演中は何度も涙されていましたが、聞いているこちら側としても酒井先生の言葉だからこそ、何度も心動かされたのだと思います。医療器具が足りなくて助けたいにも助けられない時に「本当に辛かったです」と涙ながらに話されたその声が今でも耳に残っています。医師として震災直後に行かれた彼にとっても3年経った今でも、その深い悲しみがあんなにも生々しくまだ残っているのだったら、実際に震災に遭われた人達はきっとその何倍もの悲しみを背負って毎日を生きているのかもしれない,という事を思い知らされました。

震災9日後に現地入りするためのいきさつや準備、そして当時の現地の状況等、本当に貴重なお話を聞く事が出来ました。悲しい内容と共に、酒井先生だけでなく、当時いかに多くの人が混乱の中、人を助けたいがために動いていたかという話も多く聞かせて頂けて、人間の素晴らしさにもまたまた感動してしまいました。

酒井先生は色々な活動をなさっていて、それにも本当に頭の下がる思いです。
「stop the 無関心」やこれからは「おせっかい」をどんどんしていく社会にしましょう、果ては「今日は鎌倉市長選挙だから投票にいきましょう!」など、笑いも取っていましたが、先生のモットーに一貫して「人に関心をもちましょう。つながりをもちましょう」という事が掲げられていて本当に素晴らしいな〜と思いました。お話も一時間近いものでしたが、何も見ずに話されていましたから、本当に信念のもとに話されていたのがとても伝わって来ました。

昨夜も大きな地震があり、私もパッと「被災地は大丈夫だろうか?」と頭で思ったりするので、震災の事を忘れている訳ではないと思うのだが、やはり心や感情で忘れている部分は大きいと実感した今日の大切な講演会でした。心から思い出すきっかけを頂けて本当に感謝な一日でした。

芸術の秋

只今ピアノの方は修行中なので、とにかく色々なものを吸収して自分の音楽をじっくりと見直しています。

秋口には俳優座でのチェーホフ作の「三人姉妹」を観劇。チェーホフの劇は昨年観たやはり俳優座の「かもめ」が初めてだったので、今回が2作目。今回も本当に素晴らしかった。演出が斬新過ぎて,最初相当分かりづらかったが,劇が進むにつれて、どんどんと台詞に引き込まれていってまわりの演出が気にならなくなりました。チェーホフの言葉の凄さにまたまた感激しました。それにしても、前回の「かもめ」といい,今回の「三人姉妹」といい、人間の素晴らしさと愚かさ,悲しさが深々と表現されていて、時代や国を越えてこんなにも心を打つものかと驚いてしまいます。特に今回の三人姉妹では,自分と全く重なる登場人物がいて、本当に切なくなりました。

その後,一緒に観劇した方からチェーホフの本をお借りして原作を読んでいるのだが、これがまたとっても面白い。戯曲は今まで読んだ事がなかったので、今回初めて読んで色々と発見があります。「ここの台詞はもっとあっさりと云う気がする」とか「ここはもっとテンポをゆっくりだろうな〜」とか「ここはもっと腹の底から」と、観劇したものとは違う解釈で登場人物が浮かび上がって来るのです。音楽の楽譜と同じで、名作はやはり人それぞれに解釈が出来て、本当に楽しい。

10月初めには、鎌倉での薪能。これは毎年の行事だが雨の事が多くてなかなか公演が実行されないのだが,今年は珍しくとってもいいお天気。場所は鎌倉宮で、境内に階段状の座席を特設しての大掛かりなものです。山に囲まれた社殿で、始まる前に祈祷やお清め、火入れの儀式をするのだが、それがとっても厳かに行なわれて本当に心が清められます。実際のお能もそんな神聖な空気の中で行なわれます。まだまだお能に関してはよく分からない事も多く,感動するところまではなかなかいかないのだが、その神聖な空気感の中にいるのがとても好きです。クラシック音楽ももともとはそう云う所から発しているので共通している所がとても多いような気がするのだが...。

映画では,友人が数カ月前に貸して下さったDVD、中国映画の「鬼が来た」をやっと観ました。この「鬼が来た」の映画のメイキングを日記のように書き記した本を数年前に雑誌の書評で見付けて買って読んだのだが、中国に興味があると知った友人に薦めたら、その友人がその本に感激してすぐにそのDVDを買って私に貸してくれたという次第。長いのでなかなか観る時間が取れなかったのだが、観てみたらあまりに面白くてまたびっくり。中国版の黒澤明映画のよう。ダイナミックで,テンポ感が良くて、とにかく面白い。ユーモアがあるのだが、実は人間の本質をもの凄くよく捉えていて,とても深い。絶対お薦めです。裏話としては、撮った白黒のフィルムは何と500万本分だったそう。いかにこだわりの映画かが分かります。(ちなみにアメリカでの興行収入が$18,944(200万円?)だけだったそう...。カンヌ映画祭ではグランプリをとっているのだがいい映画と興行収入が比例しない、究極的な例!)

そして、今イタリア文化会館でやっている小説家タブッキのイベントで彼の小説を映画化した「供述によるとベレイラは...。」を観て来ました。これも「鬼が来た」同様、最初は人間の滑稽さや愚かさをユーモアを交えながら軽やかに進んで行くのだが、ある大きな出来事によって、人間がいかに変貌していくかを描いています。人間はいい方にも悪い方にも変われてしまう。悲しい事だが、でも、だからまだ希望もあるのかもしれない。


本に関しては,先日偶然見付けた「音楽の根源にあるもの」(小泉文夫著)を読んでいるのだが、表面的なこじつけでない、説得力のある本でとっても面白い。世界中の音楽のルーツや違いを研究していてつくづく興味深い。普段から日本人の芸術や音楽に対する感じ方に何か西洋人とは根本的な違いがあるのではないかと考えていただけに、「なるほど!」と思う事が多く、答えをいっぱい見いだしている感じです。

という訳で、芸術の秋に相応しく,心の世界を広げています。
自分の音楽も、何がしたいのか、何が大切なのか、何を無くさなきゃいけないのかをじっくりと追求しています。