Writings

Duo Recital

  • June 29th, 1999 鎌倉中央公民館 (鎌倉)
  • Robert Gibbs Violin
  • 海老原みほ Piano

プログラム・ノート - 海老原みほ

W.A.モーツァルト (1756~1791) :ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.301

このト長調のソナタは1778年にマンハイムで書かれたものと考えられており、始めはフルート・ソナタとして構想されたらしい。この時期にモーツァルトはこの作品と共に他4曲のヴァイオリン・ソナタを作曲しており、1曲を除いてすべて2楽章形式を取っている。2楽章形式はその十数年前の初期のソナタの原則であった。
1楽章
豊富なテーマが相乗効果を生み、優美でありながら輝きに満ち、生彩を放つ。
2楽章
ロンド形式。素っ気ないほどにシンプルで優しさに溢れた楽章。中間部にはト長調の感傷的なシチリアーノが差し挟まれている。

W.ウオールトン (1902~1983) :ヴァイオリンとピアノのためのソナタ

ウオールトンは1902年にイギリスに生まれた。近・現代に属しながら、自然な息づかいと和声的な柔らかさによって聴きやすい音楽となっている。
この作品は1949年にヴァイオリニストのユフディ・メニューインのために書かれ、1950年にピアニストのルイス・ケントナーと共にロンドンで初演された。
1楽章
空虚で物憂げな始まりは徐々に実体あるものとなり、全楽章を通してそれが繰り返される。夢と現実、意識と無意識の狭間で揺れ動く。
2楽章
主題、6つの変奏曲、そしてコーダで構成されているが、中断することなく演奏されるように書かれている。半音ずつ上に転調していくそれぞれの変奏曲はまったく趣が異なり、迷宮の中をさまよい歩いている感がある。

O.メシアン (1908~1992) :ヴァイオリンとピアノのための主題と変奏

メシアンは1980年にフランスに生まれた作曲家。主流の音楽に属することなく、独自の世界を作り上げながらフランス音楽においてはドビュッシーとブーレーズの間の最も重要な作曲家として確固たる地位を築いている。信仰からくる優れた宗教的感性と彼の独特の色彩感で創造された音楽は神、自然、人間性そして愛への賛歌である。この曲は1932年にメシアンが結婚したヴァイオリニスト、クレール・デルボスのために同年作曲された。
テーマ
ヴァイオリンとピアノとの交わり合いにより作り出される繊細な和声。透明感がありながらも威厳を持ち備えた洗練された世界。
第1変奏曲
和音を豊富に使いながら、横に流れる旋律を邪魔することなく刻一刻と色彩感が変わっていく。
第2変奏曲
リズム感に溢れ、心情的にもメリハリの効いた曲想。
第3変奏曲
ヴァイオリンとピアノのリズムが複雑に交錯し、緊張感と安定感を生み出す。
第4変奏曲
躍動感のあるピアノに情熱的なヴァイオリンの旋律が乗り、一気に第5変奏曲に入っていく。
第5変奏曲
高らかに始まるこの変奏曲は戦いを勝ち抜いた勇者を想起させる。そして勝利の満足感を胸に抱きながらアンドの眠りにつくかのように幕を閉じていく。

J.ブラームス (1833~1897) :ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 Op.78

この曲は『雨の歌のソナタ』という副題が付いているが、これは第3楽章の冒頭の旋律がクラウス・グロートの詩にブラームスが付曲した歌曲『雨の歌』作品59の3と同じものになっているからである。1879年にペルチャッハで書き上げられたこの作品は全曲を通して有機的な関連性を持っている。愛情に満ち溢れた音楽で、ブラームスの心の広さ、深さを感じることができる。
1楽章
なんとも優しい旋律で始まり徐々に広がりを見せていく。情緒に満ちた優美な楽章。
2楽章
たっぷりと時間を取り、朗々と歌い上げている。重厚でありながらもどこか楽観的で前向きな印象を与える。
3楽章
層が厚くなることなく、緩やかに流れるピアノの上をヴァイオリンが自由にのびのびと歌っていく。