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人はみかけ?

もう14年程前になるが、イタリアの小さなコンクールを受けに行きました。当時ロンドンに住んでいたので、私はロンドンから行ったのだが、ヨーロッパに留学していた多くの日本人が参加していました。もちろん日本からの参加者もいたので、日本人が結構多かった。小さな街の小さなコンクールで、練習時間も一人数時間しかピアノがあてがわれないので、暇つぶしに街を歩いていると必ず誰かに会う状況です。大きなコンクールとは違ってぴりぴりしている訳でもなく、一人で来ている人も多いので、会えば一緒に散歩したり、お茶したり、食事したり、ととっても雰囲気のいいコンクールでした。この年の課題となった作曲家がブラームスとベートーベン。3次まであるコンクールで、課題曲も多かったので、やはりブラームスやベートーベンをレパートリーとして持っている特殊な傾向のピアニストが多かったように思う。考えてみると他のコンクールをいくつか受けているにも関わらず、コンクールがきっかけで知り合った人と連絡を取り続けているのは、このコンクールで出逢った人達だけです。ブラームスとベートーベンが好きな人は(完全に偏見ではあるが)音楽に対してだけでなく、人間的にも誠実のような気がしてしまう。

コンクールの1次予選、2次予選は非公開で、私は1次でさっさと落ちてしまったので、すぐに気晴らしにコモ湖に向かってこの街を出てしまったのだが、その結果、私はこの時に出逢った他のピアニスト達の演奏を一人も聴かずに帰ってしまった訳です。

11-02-09_21-04_resize.jpg前置きが長くなってしまったが、このコンクールにフランスから参加していたYさんがいました。当たりがとても柔らかく、穏やかな優しい感じなので、初めて街で会った時も気軽に話しかける事が出来ました。私もロンドンを離れてからは音信不通になってしまったのだが、時々日本でのコンサートの宣伝を見たりしていたので、いつか聴きに行きたいな〜とずっと思っていました。

そんな中、全く違う用事でやはりこの時のコンクールで知り合った京都に住んでいるM君と電話で話していたら「今度Yさん東京文化会館でリサイタルやるよ」と教えてくれました。今、自分のリサイタルの練習を最優先にしているので、直前まで迷っていたのだが、今日は練習が意外と効率良く出来たので、行く事にしました。

本当に行って良かった(笑)!!!!!
ここ10年くらいのコンサートのベスト5に入る、本当に素晴らしいコンサートでした。
とにかくびっくり。
舞台に出て来た時は10数年前の印象のまま。とても優しい感じで全く気負いもない。なぜか分からないが、お辞儀がとってもいい(笑)。姿勢がいいせいなのか、偉そうではないのに「立派」(私が書くのも変だが...。)な感じがするし、その上に誠実さが伝わって来る。

それにしてもびっくりだったのが演奏。最初の曲はモーツアルト。これはイメージ通り。音の作り方が丁寧で、和音の響かせ方が美しい。やはりブラームスを弾く人は和音の響かせ方が独特だと思う。

次がベートーベン。段々と本性が現れて来ました(笑)。音楽の追究の仕方が半端じゃない。色々なコンサートに行って最近とにかく気になるのが、安易に音楽を形よく上手に作り上げた演奏が多い事。深く追求する事がないから、みんな同じような演奏になってしまう。20世紀前半の演奏家の演奏を聴くと「同じ曲なのにこんなにも違う解釈なのか」と、驚かされてしまう。音楽的な追求の深さが「個性」を浮かび上がらせていた結果のように思う。

Yさんのベートーベン。とことん正統派なのにとにかく面白かった。曲の骨格がしっかりしているから個性が出ていても鼻につく事がない。ユーモアのセンスもたっぷり。(日本人でユーモアを感じれた演奏家は初めて!)。何回も聴いた事がある曲なのに、次にどう出るかが全く見えない。まるで、新しい曲を弾いているかのようで新鮮な気持ちで聴けました。

次にメシアンの曲、一曲。これはあまりしっくり来なかったが、この後にストラヴィンスキーのペトルーシュカ。これにとにかく唖然。「この人、こんなに凄い人だったんだ...」と驚くばかり。テクニックも凄かったが、魂の奥底から出て来る燃えたぎるような情熱にただただびっくり。ぐいぐいと聴き手を引っ張って行って、素晴らしいの一言。「まだ前半なのに、こんなに全て出し切っちゃっていいの〜〜〜?」と心配になっちゃいました。弾き終わったら、あまりの凄さに思わず唸ってしまいました。隣の人も唸っていたけど(笑)。パワフルな演奏をする人はいっぱいいるけれど、内側から来る情熱的な演奏を聴いたのは本当に久しぶり!!!また、あの穏やかで物静かな印象のYさんから出て来ているのが未だに不思議でしょうがない。凄いギャップだ!

そして後半がムソルグスキーの展覧会の絵。こんな「展覧会」聴いた事ありません(笑)!
何回も聴いている曲なのに、とにかく新鮮。新しい発見がいっぱい。媚びた演奏でもひけらかすような演奏でも自己陶酔の演奏でもなく、本当に誠実に音楽を魅せる「Yさんの展覧会の絵」でした。音楽が大きい。懐が深い。ただただ、感嘆。

今日はとにかく音楽の醍醐味を堪能させて頂きました。音楽を壊す事なく、でも自分を表現し切っていると云う、コンサートのあるべき姿で、大感激でした。

終わって、ご挨拶に出て来たYさんはまた穏やか〜な優しい感じのYさん。本当に人って見掛けでは分からない事がいっぱい(笑)。

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