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芸術の秋

只今ピアノの方は修行中なので、とにかく色々なものを吸収して自分の音楽をじっくりと見直しています。

秋口には俳優座でのチェーホフ作の「三人姉妹」を観劇。チェーホフの劇は昨年観たやはり俳優座の「かもめ」が初めてだったので、今回が2作目。今回も本当に素晴らしかった。演出が斬新過ぎて,最初相当分かりづらかったが,劇が進むにつれて、どんどんと台詞に引き込まれていってまわりの演出が気にならなくなりました。チェーホフの言葉の凄さにまたまた感激しました。それにしても、前回の「かもめ」といい,今回の「三人姉妹」といい、人間の素晴らしさと愚かさ,悲しさが深々と表現されていて、時代や国を越えてこんなにも心を打つものかと驚いてしまいます。特に今回の三人姉妹では,自分と全く重なる登場人物がいて、本当に切なくなりました。

その後,一緒に観劇した方からチェーホフの本をお借りして原作を読んでいるのだが、これがまたとっても面白い。戯曲は今まで読んだ事がなかったので、今回初めて読んで色々と発見があります。「ここの台詞はもっとあっさりと云う気がする」とか「ここはもっとテンポをゆっくりだろうな〜」とか「ここはもっと腹の底から」と、観劇したものとは違う解釈で登場人物が浮かび上がって来るのです。音楽の楽譜と同じで、名作はやはり人それぞれに解釈が出来て、本当に楽しい。

10月初めには、鎌倉での薪能。これは毎年の行事だが雨の事が多くてなかなか公演が実行されないのだが,今年は珍しくとってもいいお天気。場所は鎌倉宮で、境内に階段状の座席を特設しての大掛かりなものです。山に囲まれた社殿で、始まる前に祈祷やお清め、火入れの儀式をするのだが、それがとっても厳かに行なわれて本当に心が清められます。実際のお能もそんな神聖な空気の中で行なわれます。まだまだお能に関してはよく分からない事も多く,感動するところまではなかなかいかないのだが、その神聖な空気感の中にいるのがとても好きです。クラシック音楽ももともとはそう云う所から発しているので共通している所がとても多いような気がするのだが...。

映画では,友人が数カ月前に貸して下さったDVD、中国映画の「鬼が来た」をやっと観ました。この「鬼が来た」の映画のメイキングを日記のように書き記した本を数年前に雑誌の書評で見付けて買って読んだのだが、中国に興味があると知った友人に薦めたら、その友人がその本に感激してすぐにそのDVDを買って私に貸してくれたという次第。長いのでなかなか観る時間が取れなかったのだが、観てみたらあまりに面白くてまたびっくり。中国版の黒澤明映画のよう。ダイナミックで,テンポ感が良くて、とにかく面白い。ユーモアがあるのだが、実は人間の本質をもの凄くよく捉えていて,とても深い。絶対お薦めです。裏話としては、撮った白黒のフィルムは何と500万本分だったそう。いかにこだわりの映画かが分かります。(ちなみにアメリカでの興行収入が$18,944(200万円?)だけだったそう...。カンヌ映画祭ではグランプリをとっているのだがいい映画と興行収入が比例しない、究極的な例!)

そして、今イタリア文化会館でやっている小説家タブッキのイベントで彼の小説を映画化した「供述によるとベレイラは...。」を観て来ました。これも「鬼が来た」同様、最初は人間の滑稽さや愚かさをユーモアを交えながら軽やかに進んで行くのだが、ある大きな出来事によって、人間がいかに変貌していくかを描いています。人間はいい方にも悪い方にも変われてしまう。悲しい事だが、でも、だからまだ希望もあるのかもしれない。


本に関しては,先日偶然見付けた「音楽の根源にあるもの」(小泉文夫著)を読んでいるのだが、表面的なこじつけでない、説得力のある本でとっても面白い。世界中の音楽のルーツや違いを研究していてつくづく興味深い。普段から日本人の芸術や音楽に対する感じ方に何か西洋人とは根本的な違いがあるのではないかと考えていただけに、「なるほど!」と思う事が多く、答えをいっぱい見いだしている感じです。

という訳で、芸術の秋に相応しく,心の世界を広げています。
自分の音楽も、何がしたいのか、何が大切なのか、何を無くさなきゃいけないのかをじっくりと追求しています。

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