Thoughts

人それぞれ

音楽にどう反応するかは本当に人それぞれである。精神が不安定な時には音楽もマイナス効果があったりするので、音楽家としては色々な人がいる事を謙虚に受け止めなくては、と思っている。

20代の頃に三島由紀夫の小説を読んだ方がいいと思い、いくつか読んではみたものの、文章が私には堅過ぎてあまり好きにはなれなかったし、今では何も内容も覚えていないのだが、「小説家の休暇」という本の中でとても印象に残っていた箇所があり、ずっと頭の片隅にあって考えさせられている事がある。この「小説家の休暇」は日記形式で書かれており、文学、絵画、音楽に関しての芸術論が満載で三島由紀夫の書き物の中では唯一興味を持てた本なのだが,音楽に関しての事が数行だけ書かれていて、それが20代の私にとっては相当衝撃的だった。

ちょっと抜粋して書かせて頂くと:


「・・・音楽というものは、人間精神の暗黒の深淵のふちのところで、戯れているもののように私には思われる。こういう恐ろしい戯れを生活の愉楽にかぞえ、音楽堂や美しい客間で、音楽に耳を傾けている人達を見ると、私はそういう人達の豪胆さに驚かずにはいられない。こんな危険なものは、生活に接触させてはならないのだ。・・・」


そして、面白い事に数日後の日記に「書き足りない事があった」と、また音楽の事に触れている:


「・・・たとえば人間精神の深淵のふちで、戯れていると云えば、すぐれた悲劇もそうである。すぐれた小説もそうである。なぜ音楽だけが私に不安と危険を感じさせるかといえば、私には音という無形態に対する異様な恐怖心がある。・・・」


自分にとって音楽がある生活が当たり前だっただけに、これを読んだときはかなりショッキングだった。三島由紀夫は「強さ」のイメージが先行してしまうが、とてつもなく繊細だったのではないだろうか,と思ったり...。でも、「ここまで思う人もいるんだ」と、いう事が目からうろこでした。

ちょうどこの本を読んだ頃に実生活でも音楽全般が嫌いという人に出逢ったり、私自身もその後に精神的な暗黒時代に音楽を聴いて超ネガティブリアクションを起こした事があるので、音楽に関してはやはり気をつけなくてはいけない面もあるように思う。

音楽に毎日触れる事によって大きな喜びを得ている自分だが、全ての人がそうではない事も自覚しなくてはいけないと思っている。

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