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Wフィル&Berlinフィル

「演奏家はいい音楽を聴かないと...!」と云って、自分では絶対に手の出せないコンサートに招待して下さる方がいます。意外とクラシック音楽のコンサートは、友人や知り合いのコンサートに行く事があまりに多いために、自分で何か調べてチケットを取るという事が殆どないので、本当に感謝な事と思っています。

今秋のハイライトは何と云ってもWフィルとベルリン・フィル。Wフィルは相当前にプログラム内容を聞かされて、「どっちがいい?」とプログラム選択もさせて頂きました。選んだのはチャイコフスキーの交響曲5番の入ったプログラム。交響曲6番の「悲愴」の方が一般的にポピュラーだが、私は断然5番の方がお気に入り。大好きな曲の一つです。Wフィルの上に大好きな曲とあって本当にとっても楽しみにしていました。

コンサートの前半はロッシーニとストラヴィンスキーの「妖精の口づけ」というバレエのための交響組曲。まずはやはり音の美しさに感激。とにかく調弦にとてつもない時間を掛けて仕上げた音は異常な程に純粋。あんなに大人数で弾いているのに、その透明感には驚いてしまいます。曲の演奏中も神経質な程に弦もパーカッションも音程調整をしきりにしていたのが印象的でした。本当に聴いているこちらも身体が浄化されていくようでした。

しかし、ストラヴィンスキーになった時にちょっと嫌な予感が。あまりに音が澄み切り過ぎているのと、R.Mの指揮もテンポが遅く、重いためにストラヴィンスキーに必要不可欠な火花が散るような激しさが全く感じられなかった。お上品な思慮深いストラヴィンスキーになってしまって、全然曲の良さが伝わって来ませんでした。ここで休憩でしたが、チャイコフスキーがどうなるのかちょっと不安に。

そして、その嫌な予感が当たってしまいました。指揮者は重厚さを追い求めていたように思うが、Wフィルの音は軽やかで、テンポと音質がどうにも一致していなかった。そして、何と云ってもロシアの壮大さ、スケールの大きさ、そしてそういう大国から感じられる底力が全然伝わって来なかった。選曲がどうにもオケとは一致しない残念なコンサートだったように思いました。

超一流のオーケストラといえども、こういう事があるかと思いきや、圧倒的に感激したのはベルリン・フィル。曲もブラームス、交響曲1番、2番とプログラムとオケとの組み合わせも文句なし(笑)。ドイツの凄さを見せつけられました。

Wフィルの音程の一致の凄さが耳に残っていただけに、ベルリン・フィルの調弦が意外と雑に感じられました。オーボエの出していた音程調整のための音もヴィブラートが掛かっていると思うくらいに揺れていたし(笑)。(実際に隣に座っていたフルートのE.パユが少しそれをからかっていたように見えたけど...笑)。しかし、圧倒されたのは、とにかく全体のアンサンブルとしてのそれぞれのパートの位置感のわきまえ方と、情熱の一致感から来る一体感。特に木管と金管がずば抜けていたが、ソロの時に吹く時の音の飛ばし方とオケの中に溶け込まなくてはいけない時の音の使い分けが凄くて本当にびっくりした。音質はもちろん、音量もpppppからfffffまで10段階以上ありそうな感じでした。フルートもオーボエも良かったが、何と云ってもホルンが素晴らしかった。もともとホルンは大好きな楽器だが、ラデク・バボラークのホルンにはただただ驚くばかり。今までに聴いた事のないホルンの音と音楽で、コンサートが進むにつれて、ホルンがソロで弾いてくれないかとホルンばかりに気がいってしまっていた。

面白いなーと思うのが、20年程前に初めてベルリン・フィルをロンドンで聴いた時に、弦の凄さには感激しながらも、管が皆あまりにもボロボロで「これが天下のベルリン・フィルなの?」と結構がっかりしたのを覚えています。、あの時も確かブラームスの交響曲2曲だったが、管があまりにお粗末だったためにコンサートとしての印象はあまり良くなかった。それが、今では弦の魅力が全くかすれるくらいに管が素晴らしくなっているのだから、やはりオーケストラも時代時代によって変化があるんですね。

重厚でありながら、情熱的なブラームスが聴けて本当に幸せなひとときでした。演奏が終わって、隣に座っていらした、招待して下さった方の顔を見たら、空を見たまま「参りました...。」の一言だけ。本当にこの一言に全てが凝縮されたコンサートでした。

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